突然ですが、私は物語の"悪役"が嫌いです。
使命や宿命を果たさんと戦いに挑む主人公を妨害し邪魔立てする悪役は、見ていて気持ちの良いものではありません。しかし悪役と似て非なる"敵役"が、私は昔からとても好きでした。主人公とは違った使命や宿命を背負い、彼らの行動理念に則り正義を全うし目的のため主人公に立ちはだかる姿は、時に死してなお涙を誘います。彼らの存在が"敵"であるのは、偶然にも物語が主人公側から描かれたというだけの理由だと思うのです。
芸術など不要不急だ、エンタメは二の次だと言われ続けた長い長い一年間、私たちはもう十二分に悪役を担ってきました。そろそろ私たちを敵役にしてはもらえないでしょうか。
今演劇をする私たちはもとより主人公になどなれるはずもなく、そもそも主人公を名乗るつもりもありません。それでも自分たちの掲げる正義の名のもとに私たちも戦いたいのです。流行り病は私たちから主人公であることを奪いましたが、それでも私たちは劇場に来てくださるお客様と私たち自身を流行り病から守らねばなりません。公演関係者全員のPCR検査並びに検温換気消毒を徹底し、稽古場でも感染予防を心掛けて取り組んできました。敵役が主人公と一緒になってコロナと格闘しているのもお笑い種ですが、勝てない勝負には負けなければいいのです。世界が全て勧善懲悪であるなら悪役は正義に負けますが、我々が敵役であれるのならこの勝負は負け戦ではないと信じています。
悪役の荷を下ろし、敵役として立ちはだかる我々の戦いをどうか見届けていただけますと幸いです。劇場でお待ちしています。
2021年3月8日
縁劇集団ムコウミズ
企画 夏目美緒
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