書いてみる。...好きに。
先週は節分だった。124年ぶりの2月2日。みんなそれまでの当たり前が苦もなく身を捩るのをさらっと受け入れ、南南東を向いて海苔巻きを頬張り豆を撒いた。鬼は外。福は内。
鬼とはなんだろうか。
僕にとって大切な一曲に「フール・オン・ザ・ヒル」という曲がある。半世紀前の洋楽だ。そこで歌われているのは丘の上に一人座り、日が沈み昇るのをじっと見つめ続ける男の話。
人々は彼を愚か者(Fool)と呼ぶ。流れる日々から浮いて、ただじっと何かに想い更ける彼は人々にとって異端で理解できない存在なのだ。それはきっと一種の鬼だ。
ふと思う。
愚かと呼ばれたその人はなぜ“丘の上”に座り続けるのだろう。日の巡りに何かを見出だすのならわざわざ人目につかなくったって静かな海辺にでもいけばいい。なぜ“丘の上”なのか。
それはきっと麓の僕たちに見えるようにだ。愚かだと嘲笑させあんな風になっちゃだめよと噂されることで、しまいこんで見失った真実が僕たちの中にあることに僕たち自身が気づくのを待っているのだ。
うーん、そんな存在、やっぱ畏ろしい。できることなら消してしまいたい。……鬼は外。
鬼は外。
でも豆を撒く時、僕たちは確かに“鬼”と対峙する。仮面まで作って。誰かが被りさえして。そして豆は“鬼”を永久に滅しはしない。一年後にまた。また。
たぶん人は“鬼”と向き合ってきた。ずっと。生きるために。
そう、ときには演じることで──。
日々過ごす世界には常にどこにでも“鬼”が、Foolがいる。そんな存在や瞬間に気をとられてしまう注意力散漫な僕は今回も舞台に立つ。丘の上の姿を、見つめ続ける。無いことにさせないために。
ほら、あなたには?見えます?
2021年2月12日
縁劇集団ムコウミズ
俳優 小野口伊織
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