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執筆者の写真縁劇集団ムコウミズ

第三回「公になれないあぶれものどもの叫び」

 パブリックエネミー。

 公の敵。


 公の敵とは一体何か。ある人は巷を騒がせている新型感染症そのものだと言うだろうし、またある人はそれに纏わる政治的なもつれだと言うかもしれない。

 だが恐らくそうではないのだ。「公」の対義語は「私」である。公の敵の正体は「この状況下で大人しくできない人々」なのだろう。単に危機感がない人々の場合は勿論、そこに例えば生活に関わるような如何なる事情がある場合でも、だ。


 そう、僕たち演劇人もまた「公の敵」なのである。人間の敵はあくまで人間であって、人間とウィルスが同じ土俵で闘うことは基本的にできない。それができるのは医療従事者の皆さんを始めとした一部の専門的知識と技術を持った人々だけで、広く一般であるという意味の「公」には当てはまらない(となれば彼らは「公の味方」とも呼べるだろうか)。

 こと「感染」や「汚染」といった問題について、日本人特有の「ケガレ」という感覚は鋭敏に働く。別に「演劇人は迫害されててカワイソウなんだ」と主張したいのではない。劇場から集団感染を出した例も存在する以上、受け止めるべき非難ですらある。


 ただ僕は本公演のタイトルを目にした時、すとん、と何かがーー恐らく自分たちの「私」が何であるかを示す何かがーー腑に落ちたような気がした。右も左も行く先もわからない真っ暗闇の中で、しかし「私」を示す符号だけは保証されているということに、少しだけ救いを覚えた。

 この僕たちの存在証明とも呼べる公演は、今というタイミングでしかできないものだ。出来ることなら貴方にもその証明を見届けてほしい。いや、欲を言わせてもらえば、一緒にこの証明をやり遂げてほしい次第である。


2021年1月15日

縁劇集団ムコウミズ

俳優 柿田よしくに



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